空気から直接回収するよりも 海からCO2を回収する方が効率的
エンジニアは、海水から温室効果ガスを取り出すためのエレガントでシンプルな新システムを考案しました。膜も化学物質もなく、必要なエネルギーも大幅に削減されます。
文:Prachi Patel
2023年2月23日
海は、大気中に放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収し、世界最大の炭素貯蔵庫となっています。そして今、研究者らは、環境中の有害な温室効果ガスの総量を減らすために、海から二酸化炭素を除去する方法を考え出しました。
この方法は、高価な膜や化学物質を必要としないため容易に導入できると、MITのエンジニアはEnergy & Environmental Science誌に報告しています。また、空気中の炭素を直接回収する方法など、他の炭素回収技術に比べ、必要なエネルギーも少なくて済みます。さらに、研究者らの予備的な分析によると、この海における回収システムは経済的に実現可能であることが示唆されています。
海はここ数十年、二酸化炭素を吸収して酸性化しています。この酸性化はサンゴ礁を破壊し、貝類やその他の海洋生物に害を与えます。海から二酸化炭素を除去すれば、酸性化が緩和されるだけでなく、大気中の二酸化炭素の濃度を下げることもできます。なぜなら、二酸化炭素を除去した海は、大気中の二酸化炭素をより多く吸収し続けるからです。
研究者らは、それに加えて海水中の二酸化炭素の濃度は大気中の100倍以上だと指摘しています。そのため、海から二酸化炭素を除去する方法は、世界的に徐々に普及しつつある大気中の二酸化炭素を直接吸収する方法よりも、コストとエネルギー消費量が少なくて済むはずです。
海水から二酸化炭素を除去する既存の方法は、膜や化学物質を必要とするため、プロセスが複雑で高価なものとなっています。MITのT. Alan Hatton氏とKripa Varanasi氏らは、これらの材料の使用を避けたいと考えていました。
彼らのシステムは、連動して動作する2つの電気化学セルでできています。1つ目のセルでは、ビスマス電極が海水中にプロトンを放出します。これにより、水中の炭酸塩と重炭酸塩が二酸化炭素に変換されます。
真空チャンバーは、海水が2つ目のセルに通過する際に、海水から二酸化炭素を除去します。2つ目のセルでは、逆電圧によってプロトンが吸収され、酸性の水がアルカリ性に戻るので、再び海に放出できるようになります。
研究者らは、この二酸化炭素を除去する方法は海を行き来する貨物船や、洋上風力発電所や浮体式太陽光発電所の近くに設置することが可能だと言っています。
また、海水を処理する設備がすでに設置されている淡水化などのプロセスにも組み込むこともできます。回収した二酸化炭素は、海底の地層に直接注入して長期的に貯留したり、陸上で回収して燃料や化学物質を作ったりすることも可能です。
研究者らは、このシステムのコストを二酸化炭素1トンあたり50〜100ドルと見積もっています。現在、空気からの直接回収は1トンあたり250〜600ドルかかります。MITチームの計算では、吸気フィルターやポンプ、ガス分離などの追加コストは考慮されていませんが、現在もシステムの改良を続けており、約2年後には実用的な実証プロジェクトにこぎ着けられると考えています。
出典: Seoni Kim et al. Asymmetric chloride-mediated electrochemical process for CO2 removal from oceanwater. Energy and Environmental Science, 2023.
DATE
August 21, 2023AUTHOR
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