研究により野生動物が炭素の方程式に関係していることが判明
カワウソ、オオカミ、クジラ、魚など生態系を形成する生物の個体数を回復させると年間64億トンという驚異的なCO2を回収することができます。
文:Warren Cornwall
2023年3月29日
自然破壊が気候変動の原因であると言われるとき、チェーンソーや火災で破壊された熱帯雨林を思い浮かべる人が多いでしょう。Oswald Schmitz氏は、それとは異なる「野生動物:ヌー」に着目してみました。
気候危機の原因や解決策について議論する時、自然界のシステムに関しては植物を中心として議論することが多くあります。空気中のCO2を吸い上げ、木々や緑に変えてくれる植物を最初に思い浮かべるのは理にかなっていることです。
しかし、イェール大学の生態学者であるSchmitz氏は、動物も炭素の方程式の一部であることをあまり知られていないと考え、長年にわたって人々にこのことを伝える活動を続けてきました。10年前、彼は人々にこのことを知ってもらうため「炭素循環のアニメ化」という言葉を作ることに貢献しました。
そして今、彼は『Nature Climate Change』誌に、野生動物を本来の生息地に戻すこと(「リワイルディング(rewilding)」と呼ばれる)で私たちの余剰の炭素(Carbon Surplus)を大幅に減少させることができると書いています。
米国、カナダ、ヨーロッパ、南アフリカの科学者とともにこの論文を執筆したSchmitz氏は、「野生動物種は、環境との相互作用を通じて生物多様性と気候をつなぐミッシングリンクとなる」と指摘しています。
例えば、ヌーを見てみると、箱形の頭、上向きの角、ほっそりとした後半身は、まるでダイエット中のバイソンのようです。現在、100万頭以上のヌーがアフリカのサバンナを駆け巡り、草をヌーのウンチに変えながら暮らしています。しかし、20世紀初頭では事態はもっと悲惨なものでした。家畜が持ち込んだ病気によって、その数は30万頭にまで激減したのです。移動する群の数が減ることで草が伸び放題になり、山火事が発生し、その煙が大気中の炭素を増加させました。
その結果、セレンゲティ(タンザニアの平原)は、排出する炭素よりも吸収する炭素の方が多い炭素吸収源から炭素供給源に変わったと科学者は推測しています。現在では、病気が根絶され、ヌーの群れが戻ってきたことで、この草原は再び炭素を吸収する”スポンジ”となり、ヌーの数が最も少なかった頃よりも最大で440万トンのCO2を吸収しています。
Schmitz 氏と共同執筆者らは、この例に止まらず、主要な動物の個体数を維持または復活させた場合、生態系にどれだけ多くの炭素が吸収されるかを定量化しました。その結果、総計64億トンという驚異的な数値が出たのです。これは2021年の世界のエネルギー関連排出量のおよそ6分の1にあたります。
この数字は生態系を形成するさまざまな大型生物が気候に与える影響について、科学者らが試算したものです。ラッコ、ジャコウウシ、バイソン、オオカミ、ヌーなどの生物は、炭素の動態をさまざまな形で変化させることができます。
過去の記事でいくつか触れていますが、例えば、アフリカの森林のゾウは、樹木を食べることで炭素蓄積量を増加させ、炭素を多く含む種子を糞に混ぜて拡散させると考えられています。ヒゲクジラは、糞に含まれる鉄分が炭素を吸収する植物プランクトンの繁殖を促すため、気候変動に強いクジラとして注目されています。
しかし、この巨大なクジラや彼らが調査した他の種の影響は、小型の外洋魚の群れによって小さくなっています。ある試算では、南氷洋でクジラの数を増やすと62万トンのCO2が吸収され、世界中の魚が吸収するCO2は55億トンにのぼるとしています。
しかし、これらの数字は不完全なものです。データ不足のため、科学者らは生態系の炭素動態に影響する可能性のある アフリカ水牛、シロサイ、ピューマ、類人猿、フルーツコウモリなどを含む多くの種を含めていません。
Schmitz氏にとってメッセージは明確です。「重要な動物種がダイナミックな景観や海景の一部として生態学的に意味のある密度に達することができれば、大気中の炭素を削減するためにかかる時間を短縮することができる」ということです。
同時にこのような疑問も出てきます。化石燃料の大企業から世界的な大企業、そして地域の善意ある人々までが炭素の吸収を促進するために木を植えることを約束する中、誰かが気候変動対策として、例えばオオカミをもっと放すようなキャンペーンを始めるでしょうか?
出典:Schmitz, et. al. “Trophic rewilding can expand natural climate solutions.” Nature Climate Change. March 27, 2023.
DATE
September 20, 2023AUTHOR
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