見過ごされた機会:コンブ養殖場が海の富栄養化を改善する
大型藻類は炭素を吸収することで注目されています。しかし、新しい研究によると、特定の種は炭素より窒素を浄化するのに優れていることがわかりました。
文:Emma Bryce
2023年2月3日
コンブの一部の種類は、沿岸の富栄養化を一掃する素晴らしい能力を持っていることが、新しい研究で明らかになりました。
研究チームは、肥料や食料を生産するためのコンブ養殖が盛んである一方、富栄養化が問題視されているアラスカに注目しました。
2020年、アラスカ州環境保全局の調べでは、69の水域が都市の下水、流出水、漁業廃棄物などで不健康なレベルにまで汚染されていることが判明しました。このような汚染は多量の窒素を含むため、水域の富栄養化を引き起こし、「デッドゾーン」を形成します。一方で、窒素は海藻などの水生植物の栄養にもなるため、世界中で増え続けるコンブ養殖場が、環境修復の場として機能する可能性があります。
そこで、アラスカ大学フェアバンクス校の研究者らは、コンブ養殖場がどの程度環境を浄化できるか検証することにしました。3月から5月にかけての3カ月間、カラフトコンブとリボンコンブ(ribbon kelp)という2種類のコンブに着目し、沿岸の2つのコンブ養殖場から海水と海藻の組織を採取しました。研究室で海藻組織を乾燥・粉砕した後、炭素と窒素の含有量を分析し、2つの種におけるそれぞれの含有量、および関連する試料水から検出された窒素濃度と比較しました。
サンプル数は少なく、かなり予備的な研究であると研究者は注意を促していますが、それでも、いくつかの示唆に富む結果が得られています。
まず始めに、リボンコンブは特に栄養を吸収しやすいことがわかり、組織内に多く蓄積されていることも分かりました。実際、リボンコンブはカラフトコンブに比べて食欲旺盛で、窒素を87.5%、炭素を29.8%多く摂取していました。
これは、海水中の栄養素の量とも相関しており、海水中の窒素が多いほど、リボンコンブの摂取量は急激に増加していました。一方、カラフトコンブは、ほぼ一定の窒素量を維持していました。
このことは、藻の種類によって必要な代謝が異なり、それが栄養素を吸収する能力に影響を及ぼしていることを示唆しています。リボンコンブはより多くの栄養を必要とするため、より効率的に水中の汚染物質を除去することができるのです。研究者らは、この発見について他の研究結果も参照しており、ワカメ(winged kelp)などの他のコンブは、カラフトコンブの2倍窒素を必要とすることを指摘しています。
どの種が汚染を除去するのに優れているかがわかれば、養殖家がどの種を養殖すればよいかがわかるかもしれません。しかし、海藻の生態や養殖の理由など、別の側面から見ると、それも少し複雑だと研究者は指摘しています。たとえば、リボンコンブは、より生産性の高いカラフトコンブに比べて、生育期間中のバイオマスの生産量がほぼ50%少なくなります。そのため、重量で製品を販売する商業的なコンブ養殖業者にとっては、当然ながら最初の選択肢にはならないかもしれません。しかし、例えば、水産養殖には有利に働くかもしれません。アラスカ大学の海洋生態学者で、この研究の主執筆者であるShery Umanzor氏は、「アラスカの場合、コンブはサケの養殖場の隣で育てることが可能で、栄養分の過剰摂取を減らすことができる」と指摘しています。
また、Umanzor氏は養殖家と協力して、彼らからより多くのデータを収集するためのツールを開発していると説明しています。「私は、アラスカ沿岸やその他の地域のコンブ養殖場に関する包括的な理解を深めるために、この研究を継続したいと考えている」と述べています。
この結果から、コンブを炭素隔離の道具としてだけ扱うのは誤りであり、自然に基づく解決策(Nature -based solution: NbS)としてはもっと多くのものを提供できると研究者は考えています。「コンブは、炭素よりも窒素の過剰な排出を抑制することに優れている。これは見過ごされている話だと思う」と指摘しています。
出典:Umanzor et. al. “Nitrogen and Carbon Removal Capacity by Farmed Kelp Alaria marginata and Saccharina latissima Varies by Species.” Aquaculture Journal. 2023.
DATE
February 27, 2023AUTHOR
Future Earth Staff MemberSHARE WITH YOUR NETWORK
RELATED POSTS
洗濯洗剤から発見された酵素がプラスチックのリサイクルに役立つ?
ラッコが荒廃した海岸線を回復させる
エンジニアが光で二酸化炭素を回収する方法を発見