プラスチックをカーボン・ネガティブにー研究者らが道を切り開く
新しい研究はカーボン・ネガティブなプラスチックを作成することが可能であることを示していますが、実現にはリサイクルや炭素価格の設定以上のものが必要となります。
文:Sarah DeWeerdt
2022年12月13日
現在のトレンドと政策が変わらなければ、世界のプラスチック需要は2050年までに2倍、2100年までに3倍になり、温室効果ガスの排出量も同様に増加することが新しい研究によりわかりました。しかし、政策と計画によって、プラスチックによる環境への影響を減らすことができ、実際、プラスチックを長期的な炭素貯蔵の形態に変えることができます。
プラスチックは現在、世界の温室効果ガス排出量に占める割合が航空業界よりも大きいのですが、気候政策や社会経済発展に関する経路(Pathway)の違いによって、今後数十年の間にプラスチックが気候に与える影響がどのように変化するかということについては、これまでほとんど研究が行われてきませんでした。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で用いられているモデルにも、プラスチックは組み込まれていません。
影響が大きいだけに、このような見落としは非常に残念です。「プラスチックは気候に大きな影響を与えており、プラスチックの生産・使用方法と廃棄物の処理方法を抜本的に変えなければ、その影響はさらに大きくなるだろう」と、研究チームのメンバーでユトレヒトにあるオランダ応用科学研究機構(Netherlands Organisation for Applied Scientific Research)の持続可能性研究者、Paul Stegmann氏は述べています。
Stegmann氏らは、新しいコンピュータモデルを用いて、プラスチック産業からの温室効果ガス排出を抑制するための3つの可能なシナリオを分析しました。このモデルは、プラスチックのライフサイクル全体を追跡し、原料やフィードストック、生産プロセス、エネルギー源、廃棄物管理戦略の違いによる気候への影響を評価するものです。
プラスチック産業をより持続可能なものにするための各戦略には、それぞれ利点とトレードオフがあると研究者らは学術誌Natureに報告しています。
温暖化を2℃以下に抑えるために世界一律の炭素価格を設定すれば、経済全体が再生可能エネルギーに切り替わり、プラスチック生産に伴う温室効果ガスの排出を他のあらゆるものとともに削減することができます。しかし、プラスチック産業をより持続可能なものにするためには炭素の価格設定が必要ですが、それだけでは不十分であることが研究者らによって明らかにされました。
炭素の価格設定だけでは、ケミカルリサイクル(より高品質の再生プラスチックを生産し、より長く流通させる可能性のある高度なリサイクル形態)は、多くのエネルギーを必要とするため、減少すると考えられます。二酸化炭素を排出するプラスチック廃棄物を燃やしてエネルギーにすることは減り、より多くのプラスチック廃棄物が埋立地に送られることになります。
「当初、CO2価格を適用したときに、このモデルが埋立を好むことに驚いた」とStegmann氏は言います。「しかし、プラスチックが管理された衛生的な埋立地に適切に処理されれば、安価で排出量もほとんどないため、理にかなっている」と指摘します。しかし、埋立にも問題があり、このシナリオではますます新しいプラスチックが生産され続け、そのほとんどが化石燃料から作られることになると、Stegmann氏は強調しています。
2つ目のシナリオは、循環型経済と呼ばれるリサイクルを重視したもので、プラスチック産業による資源消費と排出を削減できる可能性があります。「循環型経済戦略は2050年までに特に大きな排出量削減効果が期待できる」とStegmann氏は言います。
しかし、リサイクル技術を向上させ、世界中に普及させるための大規模な取り組みを行っても、完全に循環型のプラスチック経済を実現することはできないことがわかりました。プラスチックの需要が増え続ける限り、リサイクルセンターに向かうプラスチックは需要に見合うだけの量を確保できないのです。そのため、プラスチックの需要を安定させるための努力も必要になります。
最後に、研究者らが提案した3つ目のシナリオは、植物由来のプラスチックの生産に補助金を出し、同時にリサイクルを増やすことで、プラスチックを長期的な炭素吸収源に変える可能性があるというものです。「植物は成長する過程でCO2を吸収し、そのCO2をプラスチックに蓄積し、それを延々とリサイクルしたり、建材などの長寿命製品にしたりして、長く使い続けなければならない」とStegmann氏は説明します。
研究者らは、2020年から2100年の間に大気に占める二酸化炭素の量が、最大で2,750億トンに相当すると試算しています。そのためには、プラスチックの生産、廃棄物管理、エネルギーシステム全体に大きな変化をもたらす必要があります。この調査結果は、プラスチック分野で理論的に可能な展望として読むのが良いかもしれません。
それでも、プラスチックの持続可能性をさらに向上させる戦略はまだ他にもあるかもしれません。Stegmann氏と共同研究者らは、プラスチックの需要を減らし、プラスチック製品を共有し、より長く使用することによる影響を調査することを目指しています。
出典: Stegmann P. et al. “Plastic futures and their CO2 emissions.” Nature 2022.
DATE
January 24, 2023AUTHOR
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