熱帯林の再生において過小評価されている野生動物の重要性
飛べない哺乳類などが熱帯雨林の種子の拡散に重要な役割を担っていることが明らかになりました。
文:Warren Cornwall
2022年11月30日
巨大な樹木がそびえ立つ熱帯林を再生するには、オポッサムなどの小さな動物が重要な役割を果たします。
パナマの熱帯雨林の再生を研究している科学者らにとって、伐採地に再び種子を運ぶことにオポッサムやサルなどの生物が重要な役割を果たしていることは、意外な発見となりました。この研究で、毛で覆われたこれらの哺乳類や鳥類、コウモリが、消滅しつつある世界の熱帯林の再生に重要な役割を果たしていることが明らかになったのです。さらに本研究は、一見無関係に見える狩猟の規制などの政策が、このような動物の役割にどのような影響を及ぼすかということにも着目しています。
この研究を主導したドイツのマックス・プランク動物行動研究所の熱帯生態学者であるDaisy Dent氏は、「動物は森林再生における最大の味方である。私たちの研究は、森林再生への取り組みが単に植物群落を形成する以上のものであることを再考する必要性を示している」と述べています。
動物が植物の種子をある場所から別の場所に運ぶ重要な役割を担っていることは、以前から知られていました。ドングリを運ぶネズミは、ニューイングランドのオークの木が気候の変化に対応できるよう助けてくれます。フィリピンの山岳地帯の熱帯雨林では、果実を食べるコウモリや鳥が種子を運んでいます。しかし、伐採地の周辺に生息する生物は森林再生がどのように進むかを予測する上であまり考慮されることはありません。
このギャップを埋めるために、Dent氏らはパナマのBarro Colorado National Monumentに注目しました。パナマ運河の洪水でできた島とその近くの5つの半島からなるこの地域は、スミソニアンによって「世界で最も集中的に研究されている熱帯林」と称される巨大な実験場となっています。
今回、科学者らは28年間にわたり、さまざまな時期に伐採された森林の再生を追跡した記録を利用しました。最も古い森林は100年前まで遡り、また70年前、40年前、20年前、そして原生林も含まれています。
研究者らは、それぞれの森で1994年、2001年、2011年に、ワールドカップサッカー場の約半分の面積に生育しているすべての樹木を数えました。そして、それぞれの木に、その種子を運ぶ動物の種類を割り当てました。例えばパナマ草は、コウモリと飛べない哺乳類の両方によって種子が運ばれることが分かっています。その結果、1年間で319種の細長い茎の植物と227種の樹木を発見しました。
このような植物と種子を運ぶ動物の組み合わせによって、どの生物が最も重要な役割を果たしているのか、また、森林の年齢とともにその役割が変化しているのかということを確認することができました。
その結果は驚くべきものでした。まず、オポッサムのような飛べない哺乳類が、森林の年齢に関係なく最も重要な役割を果たし、全樹種の75%以上の種子を運んでいたことが、11月14日に英国王立協会発行の学術誌Philosophical Transactions Bに発表されました。
この結果は、生息地の減少や狩猟によって再生中の森林に生息する動物の数が少なくなっていたとする過去の研究結果とは異なります。むしろ、この国定公園では狩猟が禁止されており、周辺の森林は比較的無傷です。
「私たちの二次林の近くには広大な保存林があり、狩猟が少ないこともあり、哺乳類の個体群が繁栄し、近隣の地域から種子の流入をもたらしたのだろう」とDent氏は指摘しています。
一方、熱帯の種子散布の研究でしばしば上位にランクされる、コウモリの種子散布における役割は比較的小さく、樹齢100年の森林を除くすべての森林の20%未満となっていました。小型の鳥類は若い森林でより重要な役割を果たしていましたが、より古い森林ではオオハシなどの果実を食べる大型の鳥類が重要な役割を果たしていました。
また、多くの種子が複数の種類の動物によって運ばれていることも分かりました。このことはある動物が同じ役割を果たしているという生物多様性の利点を明らかにしています。例えば、地上に住む哺乳類が運ぶはずの種子を、鳥が運ぶことができるかもしれないことを示しているのです。
すべての森林再生プロジェクトが、狩猟や近隣の伐採を制限しているわけではありませんが、今回の新しい研究は、森林の再生計画には、そこにどのような動物が生息しているかを把握することが有効であることを示しています。また、オポッサムやオオハシなどの動物の食習慣を利用する方法も考えられます。
この研究の筆頭著者で、現在コロンビア・ボゴタにあるロザリオ大学の生物学者Sergio Estrada-Villegas氏は、「この情報により、果実食動物が森林再生に貢献し、森林回復を早めることを可能にすることで、実務者が森林回復の計画に活用できるようになることを期待している」と語っています。
出典:Estrada-Villegas, et. al. “Animal seed dispersal recovery during passive restoration in a forested landscape.” Philosophical Transactions of the Royal Society B. Nov, 14, 2022.
DATE
December 23, 2022AUTHOR
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