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遺伝子組換え微生物がプラスチック廃棄物を分解する

遺伝子組換え微生物と化学処理を組み合わせると、プラスチック廃棄物を貴重な材料に変えることができることを科学者が発見しました。

文:Warren Cornwall
2022年10月19日

発泡スチロールのカップ、コーラのボトル、ナイロン製のカーペット、ビニール袋など、プラスチックはリサイクルの世界では悩みの種です。

その最大の理由は、「プラスチック」といっても、紙やアルミとは異なり、さまざまなポリマーの集合体であることです。それぞれの用途に合わせてオーダーメイドで作られています。また、すべての製品が同じ方法で分解され、同じ小さな構成要素になるわけではありません。

そのため、どのプラスチックが同じ種類なのかということを数字で示している様々なリサイクル識別番号が必要となっているのです。テイクアウトで使った空の容器を手に「これは6番なのか、それとも違う?」と頭を悩ませたことのある人は何人いるでしょうか。ため息すら出ます。

リサイクル業者がソーダのボトルや食料品店の袋から何かをつくる前に、まず分別しなければならないことを想像してみてください。米国でリサイクルされているプラスチックがわずか5%であることも不思議ではないでしょうか。

プラスチックのリサイクルを容易にするためには、さまざまなプラスチックが混在していても、それを単一素材に変え、再利用できるようにすることが重要な課題となっています。今回、米国の科学者らが化学的な魔法と遺伝子操作された微生物を組み合わせることで重要な一歩を踏み出しました。

米国エネルギー省国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の化学エンジニアで、この新技術を生み出したコンソーシアムの代表であるGregg Beckham氏は、「これにより、現在全くリサイクルできないプラスチックを処理できるようになる可能性がある」と述べています。

自然界で何世紀も残留する強靭なプラスチックポリマーを分解するために、研究者は何年も前から化学処理や微生物を利用することを試みてきましたが、それぞれのアプローチには欠点がありました。

化学触媒は素早く作用しますが、混合プラスチックを単一の均一な製品に変えることは困難です。結果的にごった煮のようになり、リサイクルプラスチックから新しい素材を作るにはあまり魅力的ではありません。

一方、ある種の微生物は遺伝子操作によって特定のプラスチックを代謝して特定の分子を生成することができます。しかし、こうしたリサイクルでプラスチックゴミの津波を食い止めるには、このバクテリアが作用するスピードはあまりに遅く、より耐久性のあるプラスチックには作用しにくいという二つの大きな問題があります。

Beckham氏のチームは2つのアプローチを組み合わせることによって、これらの弱点に対処しました。彼らは第一段階として、以下の3種類のプラスチックの混合物に化学触媒を作用させました。発泡スチロールに使われるポリスチレン、使い捨ての水のボトルやポリエステル製の衣類に使われるポリエチレンテレフタレート(PET)、牛乳の容器などに使われる高密度ポリエチレン(HDPE)です。これらは、リサイクル識別番号の6番、1番、2番にあたります。

NRELの博士研究員であるKevin Sullivan氏は、「今回使用した化学分解プロセスは、自然に起こるプロセスを加速させただけで、数百年かけて分解する代わりに数時間から数分でプラスチックを分解することができる」と述べています。

この化学反応によって、安息香酸、テレフタル酸、ジカルボン酸などさまざまな低分子が生成されました。

この混合物をトルエンのような美味しくない石油系化学物質を好んで食べる土壌バクテリア、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)を改変したものに与えました。このバクテリアは生物として初めて特許を取得した異例の法的経緯があり、米国最高裁の画期的な判決であるDiamond v. Chakrabartyで支持されたものです。

これは「自然界(通常は他の微生物)からDNAを採取し、それをシュードモナス・プチダのゲノムに貼り付けている」と、NRELの生物工学者で論文の共著者であるAllison Werner氏は説明しています。 Werner氏らは、この分子の混合物を新しいプラスチックに利用できるポリヒドロキシアルカン酸やβ-ケトアジピン酸へ代謝できるように、このバクテリアに手を加えています。

最終的に、化学触媒とバクテリアの組み合わせによって、プラスチック混合物から成る廃棄物の23%もが再利用可能な分子に変わったと研究者は10月13日付のScienceに報告しています。

シンガポール国立大学の化学エンジニアで、この論文の著者らとは別にプラスチック混合物のリサイクル方法を研究しているNing Yan氏は、この方法がプラスチックの分解に2つの異なる戦略を組み合わせた画期的なものだと指摘します。「このコンセプトはとても気に入っている。今まで誰もやったことがない」と言っています。

この方法は研究室ではうまくいっていますが、いずれ商業規模で使えるようになる保証はありません。経済的な課題もあります。バクテリアの中には、医薬品などの分野で求められる価値ある分子を作り出すことができるものがあります。しかし、そういうものは比較的少量しか使用されないとYan氏は言います。一方、価値の低い分子を大量に作ることは、特に化石燃料から直接得られる分子と競合する場合、資金を稼ぐのが難しくなる可能性があります。

「技術的な疑問はない。経済的に成り立つかどうかということについては、さらに実質的なデータが必要だ」とYan氏は指摘しています。

出典:Sullivan et. al. “Mixed plastics waste valorization through tandem chemical oxidation and biological funneling.” Science. Oct. 13, 2022.