海の中のプラスチックゴミの島が新しい住処になる?
海に浮かぶ巨大なプラスチックの島は、沿岸環境から侵入した種と太平洋の真ん中に生息する生物による、新しいハイブリッドの生態系が住む実験場となっています。「新外洋性」と呼ばれる世界をご紹介します。
文:Warren Cornwall
2021年12月15日
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海の真ん中でゆらゆらと揺れるイソギンチャクを見つけるのは、サハラの砂丘で熱帯雨林に生息するカポックの木に偶然出会うようなものです。しかし、近年、プラスチックゴミを探して太平洋を航海している人々が、最も近いビーチから何百キロも離れた瓦礫に付着している沿岸生物の群れを捕獲しています。
イソギンチャク、エビのような小さな生き物、扇形のポリプなど、通常は海岸近くに生息する生物が、海の中のゴミの小島で繁栄しているようだということがわかり、科学者らは様々な生物の生息可能な場所に関する基本的な前提を考え直さざるを得なくなっています。科学者はこのような生物群集を「新外洋性(Neopelagic)」と呼ぶことも提案しています。
スミソニアン環境研究センターのMarine Invasions Labを率いる海洋生態学者で、この研究チームの一員であるGreg Ruiz氏は、「外洋はこれまで沿岸生物にとって生息可能な場所ではなかった」と言っています。「過去にその場所にプラスチックがなかったという生息地の制限もあるが、エサが乏しい環境だったということもある」と指摘しています。
浅海生物や陸生生物が海洋の一部を横断することは、長い間知られていました。科学者らは、このような航海が、海に投げ出された漂流物に付着した生物がどのように島に定住したのかを説明するヒントになると考えています。しかし、このような漂流は、樹木のようないずれ朽ちてしまう自然物による比較的短期間な旅であると考えられていました。
しかし2011年に日本を襲った津波は、そのような漂流がもっと長期間続き、また範囲を広げる可能性があることを示唆しています。震災で漂流した瓦礫は、6年かけてハワイや北米に漂着し、日本沿岸に生息する約300種の海洋生物を運んでいました。またその多くは、ブイや埠頭の一部など、プラスチックや金属に付着して運ばれてきていました。
研究者らは、外洋に漂う沿岸の生物をより組織的に研究しました。2018年よりNASAから一部資金提供を受けた科学者らは、個人の船員だけでなく、ゴミ収集団体にも協力を求め、海流や渦の影響でプラスチックゴミが集中する場所として知られる5ヶ所のうち最大の「太平洋ゴミベルト」からサンプルを採集しました。スミソニアンセンターの科学者らは、このプラスチックの塊がどのような生物のすみかになっているかを調べるため、ゴミを細かく調べました。
「Nature Communications」誌の12月2日号によると、研究者らは、外洋に生息する種、また本来の沿岸の生息地から遠く離れた場所に生息する種の両方を発見し、新しい融合が見られたと報告しています。通常、海の浮遊物に生息するフジツボは、海岸近くの海藻や岩に生息するポリプと同じ場所に生息していました。外洋のカニは、通常では決して出会うことのないイソギンチャクのそばをうろついていました。ペットボトル1本のように小さなものから、漁網やブイなどの大きなゴミにも、さまざまな生態系が混在していることが分かりました。Ruiz氏は全部で数十種類の近海生物を発見したと言っています。
この発見により科学者らは、これらの生物が本来の生息地とはかけ離れた場所でどのように生存できているのかということ、またその潜在的な影響に頭を悩ませています。海面の多くは比較的食料に乏しく、プランクトンの増殖に必要な栄養分もあまりありません。プラスチックがサンゴ礁のように機能して、より多くの餌を引き寄せているのか、それとも、より生産性の高い海域をたまたま漂っているのかは不明だ」とRuiz氏は述べています。
さらに、この発見により、海の広い範囲に新たな人工的な生息地ができることで、特定の種の生息地や他の場所への侵入に関する予想や既存の生態系へ混乱をもたらすのではないかと、科学者たちは考えています。外洋に生息するよう進化した種は、新しい種と遭遇した時、どのように対処するのでしょうか。
海面を行き来する既存の種は、さまざまな生存戦略を進化させてきました。朝顔貝は泡を吹いて逆さまに浮遊します。クラゲのような生物は、風を受ける小さな「帆」を張って海を漂っています。
この論文の主執筆者で、スミソニアンセンターの元博士研究員であるLinsey Haram氏は、「沿岸の生物はこのような海を漂う生物と競っている」と述べています。「彼らは場所や資源をめぐって争っている。そして、それらの相互関係については、よく理解されていない」と指摘しています。
科学者らは現在、この現象をより詳細に調査する一連の論文に取り組んでおり、発見されたさまざまな種のカタログを作成し、これらの種が互いに衝突し、また離れながら海をどのように移動しているのかモデリングしています。
食物網の構成など、これらの場所の生態系の動態に関する疑問に答えるには、さらなる研究が必要です。そして、そのためには新たな資金の投入が必要だとRuiz氏は指摘しています。
このような新しい「島」の生態系が拡大する余地は、今後ますます大きくなっていくでしょう。ある予測によれば、2050年までに海に流れ込むプラスチックは現在の4倍、年間3,000万トン以上になる可能性があります。新外洋性生物の生息地としてはかなり多くなります。
出典:Haram, et. al. “Emergence of a neopelagic community through the establishment of coastal species on the high seas.” Nature Communications, Dec. 2. 2021.
DATE
January 18, 2022AUTHOR
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