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世界初の研究:食品の生産とサプライチェーン全体のCO2排出量が明らかに

最大の排出源である土地由来の排出量は、冷蔵やプラスチックのパッケージなどに次いで明らかに最も削減すべき対象である。

文:Emma Bryce

2021年3月19日

(Click here for the original English version)

Nature Food誌に掲載された新しい研究によると、世界の温室効果ガス排出量の3分の1にあたる34%をフードシステムが毎年排出していることがわかりました。この結果はこれまでに行われたいくつかの研究結果と一致しています。

しかし今回の新しい研究では、食品の生産とサプライチェーンの全過程における温室効果ガスの排出源を特定するために、膨大なデータを詳細に収集しています。これにより初めて、セクター別、国別の排出量を確実に特定することができ、世界の排出量において冷蔵とプラスチック包装による排出量の割合が高まっていることなど、驚くべき事実が明らかになりました。

この詳細な結果を得るために、研究者らは欧州委員会共同研究センター(JRC)が作成したEDGAR(Emissions Database of Global Atmospheric Research:地球規模大気研究のための排出量データベース)と国連食糧農業機関(FAO)のデータの2つの大規模な既存データを利用しました。EDGARのデータを利用していることから、新しいデータセットは「EDGAR-FOOD」と名付けられました。今回の研究では1990年から2015年までを対象とし、農作物や家畜、養殖や漁業など、あらゆる形態の食料生産における様々な種類の排出量を推計しました。また、土地の転換や食料生産、輸送、加工、包装、小売、そして消費までを含むフードシステム全体の排出量を測定しました。

その結果、2015年までに、地球上の広大なフードシステムが年間18ギガトン(180億トン)のCO2を排出していることがわかりました。これは世界の温室効果ガス排出量全体の3分の1に相当します。

これらの排出量の大部分は、農作物の栽培や家畜の飼育といった「農場の中」での活動が占めており、その割合は71%に達しています。そのうち半分以上の39%は食料生産や肥料などの農業に投入される物から発生しています。71%のうち32%は、森林伐採や有機・泥炭地の破壊などによる炭素の損失となる土地利用の変化が占めています。これは排出問題の多くが農業の初期段階にあることを示しています。

一方、フードシステムからの排出量の残り29%は、食料の生産には直接関係なく、むしろ輸送、包装、販売、廃棄などに起因するものでした。さらに、この食品関連の排出量の割合は増加していることが分かりました。欧州委員会共同研究センターの研究員で、今回の論文の共同執筆者であるAdrian Leip氏は、「今回のデータでは、主に農場の外におけるエネルギー使用による排出量の重要性が増しており、土地とエネルギーシステムの複雑なつながりを示している」と指摘しています。

小売や包装など、通常はあまり注目されない食品生産の側面が特に注目されています。2015年までに食品包装は食品関連による年間排出量の5.4%を占めており、プラスチック包装による海洋汚染などの課題以外にも、これらの使い捨てのアイテムが生み出す排出量について考える必要があることを示しています。一方、冷蔵はフードシステムから排出される温室効果ガスの5%を占めていますが、コールドチェーン技術の普及に伴い、この数字は増加すると予想されています。

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このデータは、国によって排出量に大きなばらつきがあることも示しています。全体として、食品関連の排出量全体の約27%は裕福な先進国からのものであり、そのほとんどは、加工や食品廃棄物などの農場外の後の段階で発生しています。一方、排出量の大部分、73%は開発途上国からのもので、主に農業生産と土地利用の変化に起因しています。 

このことは、食料生産のための土地転換のほとんどが途上国で行われているという事実からも裏付けられます。しかし、これらの土地由来の排出量の大部分は、裕福な先進国で消費される食料の生産に関連しており、これらの排出量には先進国も関与していることを認識することが重要です。

排出量を国別に見ると傾向は変化しており、中国、インドネシア、米国、ブラジルなどの排出量の多い国が混在していることがわかりました。

これまでの研究では「フードシステムによる排出量はグローバルなレベルでしか推定できなかった」とLeip氏は言います。今回の研究では、長期間にわたる複数の新しい詳細情報を提供することにより、これまでの研究ではできなかった食品セクターや国別の排出量の要因を掘り下げることができるようになりました。その結果、食料による地球への影響を軽減するための複数の道筋が明らかになりました。

研究者らは最大の排出源である土地起因の排出が最も明白な緩和策であると強調しています。このデータは、森林伐採率を減らし、土壌保全などの持続可能な農業方法を増やすことが重要であることを示しています。しかしLeip氏は、輸送、冷蔵、包装など、農場外で展開されるプロセスも、特にこれらによる排出量が現在増加していることを鑑みると、脱炭素化とエネルギー効率の向上のための重要な分野であると考えています。

「どの政策決定においても良質で確固たる証拠が必要だ」とLeip氏は述べます。そしてこの新しいデータにより、食料システムと地球のために排出量を削減する方法について、私たちがより多くの情報に基づいた意思決定ができるようになります。Leip氏はまた、「EDGAR-FOODが、フードシステムによる温室効果ガス排出量を削減するために最も効果的な行動が何かを特定するのに役立つことを期待している」と述べています。

出典:Crippa, et. al. “Food systems are responsible for a third of global anthropogenic GHG emissions.” Nature Food. 2021.