ゼロエミッションと経済成長を両立するには条件がある
ゼロエミッションを達成するために必要なGDPの割合は、GDPが増加するにつれて減少する
2021年6月8日
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パリ協定や国連の持続可能な開発目標(SDGs)で示されている通り、汚染を減らして「ゼロエミッション」を達成することの重要性については基本的に世界各国がほぼ同意しています。
しかし、多くの政府は汚染の除去や、よりクリーンな製造プロセスへの投資が経済に悪影響を及ぼすのではないかと懸念しています。一方、日本の研究者がJournal of Cleaner Production誌に報告した研究によると、そのようなことは示されていません。研究チームのメンバーである東京理科大学の野田英雄教授(経済学)は、「この論文の主なメッセージは、環境保護のためのゼロエミッションと持続可能な経済成長は理論的に両立可能だということです」と述べています。
今のところ、ゼロエミッションと経済成長の関係はよく理解されていません。そこで野田教授は共同研究者である商工中金のKano Shigeru氏とともに、このテーマに新たな光を当てる数理モデルを開発しました。
このモデルは経済が二つの段階の間で揺れ動く様子を反映しています。一つは、企業が急速に技術革新を行う段階と、もう一つは企業が資本を蓄積して技術革新を行わない段階です。
これまでの経済成長と環境保護に関するモデルでは、先進国の経済成長の重要な原動力であるイノベーションが考慮されていなかったため、このモデルは重要です。また、これまでの研究では経済の周期的な変動を考慮に入れたものはほとんどありませんでした。
このモデルでは、ゼロエミッションを追求することが一貫した経済成長と両立できることが示されています。しかし、これには二つの条件があります。一つ目は、国の豊かさを表すGDPがもともと高い国にしか当てはまらないことです。二つ目は、GDPの一定割合を汚染の除去に充てることを期待してはいけないということです。これでは、ゼロエミッションは達成できても持続的な経済成長は望めません。
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むしろ、このモデルによると、ゼロエミッションを達成するために必要なGDPの割合は、GDPが増加するにつれて減少します。つまり、経済活動に占める汚染除去の割合は、時間の経過とともに減少するということです。
さらに、イノベーションが起きない状態の経済的段階では、GDPの成長率が高く、汚染除去に費やされるGDPの割合は急速に減少します。イノベーションが起きる段階では、GDPの成長は緩やかになり、ゼロエミッションの達成に必要なGDPの割合はよりゆっくりと減少します。
しかし野田教授は、経済が減速しGDPが減少すると予想される場合でも、各国はゼロエミッションを達成できるようにGDPに占める汚染除去の割合を増やすべきだと指摘しています。
このモデルは、経済と環境問題のすべての側面を捉えているわけではなく、すべての汚染が国内で発生し、除去されると仮定しています。「そのため、国境を越えた汚染の状況を考慮した複数の地域にまたがるモデルを構築することが今後の課題です」と野田教授が述べています。
出典:Noda H. and S. Kano “Environmental economic modeling of sustainable growth and consumption in a zero-emission society.” Journal of Cleaner Production 2021.
DATE
June 23, 2021AUTHOR
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